今や日常的なコミュニケーションツールとして欠かせない存在になっている、LINE。同グループでは現在、全国各地の自治体と連携し、LINEを使った市民サービスの提供を進めているが、その最先端を走っているのが、東京でも大阪でもなく、福岡市だということをご存知だろうか。
福岡市LINE公式アカウント登録者数は現在、約180万人。なんと市の総人口よりも多いという。人気の秘密は、充実した機能だ。豊富なメニューの中から自分が欲しい情報を選択でき、台風や黄砂といった気象情報から、各種のごみ出し日、その日の学校給食の献立(アレルギーを持つ子どもの親にとっては気になる情報だ)、近隣に救急車や消防車が出動しているという情報まで、多種多様な情報がスマホに届く。さらには最寄りの避難所や「赤ちゃんの駅」を検索できたり、粗大ごみの収集もLINEで簡単に申し込むことができる。
おかげで最近は、他都市から転入してきた人々から「福岡市は便利!」という驚きの声がたくさん上がっているのだとか。そんな「新しい便利」の仕掛け人が、「LINE Fukuoka 株式会社」にあるSmart City戦略室なのだ。
地元企業ともコラボ
「LINE SMART CITY FOR FUKUOKA」というテーマを掲げる彼らの活動は、自治体サービスにとどまらない。 例えば、西日本鉄道と連携し、電車やバス、定期券売り場などの混雑状況を自宅で確認できるシステムを導入。系列のスーパー「西鉄ストア」では、「節分の恵方巻」など季節限定の商品をLINE上で予約できるモバイルオーダーシステムも導入されている。同様に、福岡空港でも保安検査場の混雑状況をLINE上で確認することが可能。また人気の水族館「マリンワールド」では、LINE上で順番待ちの予約ができるミニアプリを導入。「行列に並ぶ時間」を、「水族館を楽しむ時間」に変えることに成功するなど、福岡市のあちこちでSmartな進化がひろがりつつある。
今回はその仕掛け人であるSmart City戦略室の本拠地に潜入。なぜ福岡が先進地となりえたのか。チームの立ち上げから関わる南方尚喜さんに、これまでの歩みと、LINE SMART CITY FOR FUKUOKAがめざす未来についてインタビューしてみた。
南方尚喜(みなかた なおき)
DX・Smart Cityセンター センター長
1983年生まれ。東京都出身。㈱リクルートコミュニケーションズ(現リクルート)に入社。東京と福岡の拠点で制作として活躍し、新規事業の立ち上げ等に携わった後、34歳でLINE Fukuoka 株式会社に入社。Smart City戦略室を立ち上げ、同プロジェクトの推進に力を注いでいる。
今の悩みを、今の技術で解決したい
まずは、Smart City戦略室の概要について教えていただけますか?
- 南方さん:
- 「LINE Fukuoka」には現在、約1300人の社員が働いていて、そのうちの15名が、Smart City戦略室のメンバーです。ちなみに、そのほとんどが中途入社組。前職も出身もいろいろです。でもそれがいいんですよね。いろいろなアイデアを持ち寄れますから。
―LINE SMART CITY FOR FUKUOKAプロジェクトが始まった背景は?
- 南方さん:
- 福岡市のLINE公式アカウントは2017年に開設されました。全国的にも先駆けだったのではないでしょうか。その背景としては、福岡市にはLINEグループ国内第2の拠点「LINE Fukuoka」があることと、高島宗一郎市長がDXに対して積極的だったということがあると思います。僕はLINE公式アカウントができた翌年に経営企画として入社したんですが、当時すでに数十万人の登録者がいました。でも僕は、「もっとやれることがあるんじゃないか?」と思っていたんです。ぼんやりとですが、LINEで福岡のまちをもっと便利にしていけるんじゃないかと考えていました。そんなときに、福岡市とLINEグループが包括連携協定を締結(2018年8月)することになりまして。それをきっかけに、僕がリーダーとなってこのSmart City戦略室を立ち上げたんです。目的としては、市のLINE公式アカウントをもっと充実させていくことはもちろんですが、他の地元企業とも連携できるんじゃないかと、当時から思っていました。
LINEが掲げる「Smart City」とは?
- 南方さん:
- 「Smart City」のとらえ方はさまざまですよね。それでいいと思っているんですが、僕らが大事にしているのは、未来都市のようなものをつくるのではなくて、住んでいる人が今困っていることを、今持っているものを使って、今解決してあげることなんです。ですから活動を進めるにあたっては、どれだけ多くの市民のためになるか(影響範囲)と、どれだけ市民の暮らしを便利にできるか(変化の大きさ)という2つの指標を重視して取り組んでいます。
コロナ禍で方向性が定まった
サービスはどのようにして生まれるんですか?
- 南方さん:
- 具体的な課題や悩みから生まれることが多いですね。例えば福岡市の場合ですと、福岡市は春の転出入がとても多いんです。そのシーズンは区役所が非常に混雑するという課題があったので、LINEを使って窓口の混雑状況が見えるようにしました。また、ごみ出し日の通知機能も、転入してきた人にはとても便利です。福岡市は燃えないごみの日が月に1回しかなく、出し忘れると来月まで待たないといけませんからね。
そうした課題はどうやってキャッチするんですか?
- 南方さん:
- 福岡市とは定期的に会議をしているので、市の担当者から「こういう課題がある」と要望されることもありますし、僕たち自身が日々感じていることを新しいサービスにつなげることもあります。例えば、Smart City戦略室の中に子どもが生まれたメンバーがいて、外出先でおむつを替える場所がなくて困ったという経験から、最寄りの「赤ちゃんの駅」を探す機能を作ったこともあります。
地元企業との連携はどのように?
- 南方さん:
- 西日本鉄道株式会社(以下、西鉄)さんと一緒に取り組むようになったのは、新型コロナウイルスによる最初の緊急事態宣言の時でした。あの頃はコロナのこともよくわかっていなくて、外に出かけるのも怖い、というような時期でしたよね。一方、西鉄さんでは交通事業の売上が落ち込んでしまっていました。だったらすでに開設していた西鉄電車・西鉄バスLINE公式アカウントでバスや電車の混雑状況を確認してもらって、安心して出かけてもらう仕組みを作ったらどうだろう?と提案したんです。ちょうど西鉄さん側でもDXで顧客体験を向上させようという機運が高まっていたこともあり、話はトントン拍子で進みました。最初の機能は8日間くらいでリリースできましたね。
成果は?
- 南方さん:
- 最初にリリースした混雑状況を知らせるサービスは、1年で10万回使われました。その1年後には(2021年2月)にはDX推進による連携協定を結び、現在では西鉄グループ全体の利便性向上を図っています。と同時に、僕らにとっても西鉄さんとの取り組みは大きなきっかけになりました。以前から地元企業と連携したいという思いはありましたが、LINEをどう活用していくかが、当初はあまり見えていなかったんです。でもコロナ禍によって、「利用者の皆さんの不便や不安をLINEで解決しよう!」と、取り組む方向性が定まったんですよね。
コンパクトシティ・福岡の魅力
南方さんは東京出身だとか。なぜ福岡に?
- 南方さん:
- 「リクルートコミュニケーションズ」という会社に新卒で就職しまして、3年目に東京から福岡に異動になったんです。それを聞いたときはショックでしたね(苦笑)。九州にすら修学旅行以外で行ったことがありませんでしたし、遠い!というイメージしかなくて…。でも福岡のまちを歩き回っているうちに、すぐに、いいところだなぁと思い始めました。仕事の上でも、新しいことをやりやすいんですよね、福岡は。東京にある本社の方針をあまり気にしなくてもいいから(笑)、自由にできるし、地元企業も業種の壁を越えて「まちの成長や市民のために」という同じ志で一つになれるんです。前職でも新しい取り組みをたくさん実現できました。で、あっというまに5年が過ぎて、また東京へ異動になったんです。
そのときはどんなお気持ちでしたか?
- 南方さん:
- さみしかったですね。東京でも、やりがいのある仕事をやらせてもらっていました。でもある時、上司から「お前は何がしたいんだ?」と問われましてね。「これから何の社会課題と向き合っていくんだ?」と。それですごく悩んじゃったんです。自分は何がしたいんだろう?って。そのうちに、福岡で出会った人たちが好きだし、その人たちのために何かできないかと考えるようになりました。そんなときに出会ったのが「LINE Fukuoka」だったんです。LINEというサービスだったら、福岡の人たちをもっと幸せにできるんじゃないか。そう思って、34歳の時に前の会社を辞め、「LINE Fukuoka」に入社しました。
そんな南方さんが感じる、福岡の魅力とは?
- 南方さん:
- 福岡はよく「コンパクトシティ」といわれますよね。それは都心と空港が近かったり、自然が近かったりといった地理的な意味でいわれることが多いと思うんですが、経済界もそうなんです。地場企業同士の距離が近くて、一緒にプロジェクトが作れる感覚になれます。自社の利益はもちろん大事ですが、福岡のためなら!という大義名分があれば1つになれる。そこが大きな魅力だと思いますね。福岡に来た視察者が驚くのもそこ。これだけ地元企業が一体になれるのは珍しいと思います。だからまちの課題に対しても、一緒に取り組んでいける。LINEだけだと弱いけれど、いろんな企業と一緒だといろんなことができるので、より意味のあるSmart Cityができると思います。
住民の行動が変わって初めて、Smart Cityといえる
今後のビジョンを教えてください
- 南方さん:
- インターネットの世界にあらゆるものを近づけていくこと、境目をなくしていくことが目標です。そういう意味では、福岡市だけが便利になってもだめだなと思っています。同じエリアに住んでいても、所属する自治体によって防災情報に差があるのが現実。でも住んでいる人にとっては自治体の境目ってあまり意味がないんですよね。みんなつながっているわけですから。これからは九州全体という視点で考えていかないといけないと思っています。その手始めとして、どの自治体でも気軽にサービスが提供できるよう、2020年の8月から全国60以上の自治体が導入してくださっています。その半分は、九州。九州は全国的に見ても進んでいるエリアだと思いますね。
これからLINE SMART CITY FOR FUKUOKAがめざすものとは?
- 南方さん:
- 住民に安全・安心を提供する、もっと便利なまちにする、というところにはもちろん力を注いでいくのですが、もう1つ、僕が目指しているのは、住民が主体的に動けるツールにすることなんです。なんでも自治体に丸投げするんじゃなくて、自分で動いて必要な情報を入手し、主体的にまちづくりに参加できる仕組みを作りたいと思っているんですよ。例えば道路の破損か所などをLINEを通じて市に通報できる機能を作ったのもその一環です。皆さんが毎日必ず使っているLINEだからこそ、アクションを起こすサポートができると思うし、市民の行動に変化が表れてこそ、初めてSmart Cityと呼べるんじゃないかと思っています。
最後に、福岡に移住転職を考えている方にメッセージをお願いします。
- 南方さん:
- 福岡は、追い風が吹き続けているまちだと思います。来年には「世界水泳」も開催されますし、空港や天神、博多駅エリアの再開発も進んでいます。まちに変化があるということは、そのぶん、チャンスもあるということ。いろんなチャレンジができるまちだと思いますね。Smart City戦略室もほとんどが中途入社なんですが、個人的には、一度福岡を離れた人のほうが、より活躍できると思いますね。他の都市と客観的に比べることができるし、福岡の良さもよくわかっているから。
(取材後記) 「Smart City」と聞くと、「最先端」とか「ハイテク」といった、とっつきにくいイメージを思い浮かべがち。だが南方さんのお話を聞いて、イメージがずいぶん変わった。例えば福岡市LINE公式アカウントに登録していると、「今日は○○のごみ出し日です」というメッセージが届く。最近ではこのメッセージを見て、「あ、そうだった」とごみを出すことが、福岡市民の間ではもはや日常になっている。そんな、ついこのあいだまではなかった便利をLINEで生み出し、当たり前にしていくことが、Smart City戦略室のミッション。それは、今を生きる人たちの小さな不満や困りごとを1つ1つ拾い上げては解決していく、地味で泥くさい仕事の連続だ。と同時にそれを支えている原動力もまた、「Smart」という言葉のイメージとは真逆な、「愛する福岡をもっとよくしたい!」という熱い情熱なのである。自治体や地元企業との連携を深めながら、もっと便利に、もっと活力ある福岡をめざして、コツコツと歩みを進めていく彼ら。その先には、どのまちの真似でもない、福岡流のSmartな未来が待っている。
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