潜入、山の中の秘密基地
マンガやアニメで見ていたロボットは、いつも、働いていた。人間を助け、人間を守りながら。大人になり、身の周りでロボットらしきものは見かけるようになったけれど、あの頃憧れていたロボットたちとは「違う」と感じてしまう。あれはしょせん、夢物語だったんだ――そうあきらめ、割り切っている大人がほとんどだと思う。 ところが、あきらめていない技術者たちがいるという。しかも、この九州に。
姿を見せ始めた「ワークロイド」
会社の設立は2000年。ルーツは、創業者・髙本陽一氏 の家業、北九州市にあった建設機械のディーラーにさかのぼる。 陽一氏が後を継いだ時に、メーカーを志し、食品製造ラインの企画・製造を始めた。やがて、遊び心でロボットを作ったことが転機になった。会社の受付をロボットにしたところ、各種メディアに取り上げられ、一躍注目の的に。当時、新たな産業の創造に意欲を見せていた福岡県知事から直々に、「ロボット専門の会社を作ったらどうか?」と提案されて、立ち上げたのが、テムザックだった。 その後の歩みは異質だった。松尾部長はこう説明する。
「現在、ロボットと聞いてイメージされるのは、工場で働く産業用ロボットか、店頭やアミューズメント施設で見かけるコミュニケーションロボットでしょう。でも、うちがめざす製品はどちらにも入りません。一般の生活空間のなかで働くロボットなんです」
そんなプライドと、差別化の意味を込めて、テムザックでは自社製品を「ワークロイド」と呼んできた。
すでに実用化されている代表作が、歯科患者シミュレーター「デンタロイド」である。歯科学生の実習用に開発された157センチの全身モデルで、音声認識機能を搭載。医師の指示に従って口を開け、顔を向ける動作や、不意な首振り、せき込み、閉口疲労など、患者の動きをリアルに再現する。 さらに最近開発されたのが、子ども型のシミュレーター「Pedia_Roid (ペディアロイド)」。子どもの歯科治療中の事故が後を絶たないなか、その防止対策として期待が集まっている。
介護現場からの要望で開発されたのは、被介助者用のモビリティ「ロデム」。 ベッドやいすから簡単に乗り込めるため、介助者の手を借りず、自分の力で自由に移動できる。 さらに、さまざまなサイズを揃える「援竜」シリーズは、災害復旧用に開発された。人が立ち入れない場所での復旧作業や救出作業を担う。ロボットが双腕のアームで瓦礫を持ち上げ、人を救出する。そんなアニメで見た世界が、すぐそこまで来ている。
九州で面白い仕事がしたかった
一方、会社の台所事情は、まだまだ発展途上。 「正直、まだまだ財務状況は厳しいです。新しい産業ですし、開発にはものすごいお金がかかるので。今期やっと黒字化する予定です」 そう松尾部長は教えてくれた。 そんな松尾部長も実は、転職組なのだそうだ。ご経歴を聞いて、驚いた。大手広告代理店の営業畑で長く活躍。55歳でここに来る前は、海外法人の社長を任されていたという。そんな松尾さんがテムザックに転職した理由はなんだったのか。
「海外から故郷である北九州市に戻った後、知人からテムザックを紹介されたんです。残りの人生は、地元である九州で面白い仕事がしたいと思っていたので、お手伝いを始めました。苦労は多かったけれど、ポテンシャルを持っている会社で働くのは面白かったですよ」
まだ誰も、答えを見いだせていない世界で
そして今、時代がテムザックに追いついてきたのを感じているという。
「5年前ほどから、本格的な開発依頼が一気に増えてきました。介護、医療、災害など、ニーズがはっきりしてきたんですね。と同時に、社内のノウハウも蓄積されて、応えられるようになってきた。技術とマーケットがかみあうようになってきたんですよ」
ここでは詳しく明かせないものの、さまざまな業種の企業との共同開発も複数進んでいるそうだ。いずれも、人手不足という深刻な課題を解決するためのもの。また、中東を始め、海外からのオファーも増え続けているという。 もっと大きなロボットメーカーもあるなかで、なぜテムザックにオファーが集まっているのか?という質問をぶつけると、松尾部長はこう教えてくれた。
「設計の思想が違うからです。産業用ロボットは固定されていますよね。しかも広くて安定した環境で使うのが前提。でもワークロイドは、不整地で、光も不安定な環境で仕事をしないといけません。サイズだって、その環境によって制限されます。ですからこの分野の製品は、大手もまだ答えを出せていないんですよ」
一方、テムザックは「ワークロイド」の理念をいち早く掲げ、各地の大学と連携しながら、共同研究を続けてきた。この分野では明らかに、「一日の長」があるのだ。 にもかかわらず、会社の成長がスムーズに進まない理由の1つには、人材不足という課題もある。増え続けるオファーに、対応しきれないのだ。 逆にいえば、技術者させ揃えば、爆発的な成長を遂げる可能性もあるということ
「これまでは苦労してきましたが、それは当たり前なんです。今までになかったもの、新しい産業自体を作ろうとしてきたのだから。その苦労が今やっと、花開こうとしています。そういう意味では、今から入る人はチャンスだと思うんですよ」
誰よりもテムザックのポテンシャルにひかれ、その成長を見守ってきた松尾部長は、力強くそう語ってくれた。
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