- 九州大学発のベンチャー企業
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カイコと聞いてまず思い出すのは、絹の生産に欠かせないあの昆虫。でもこの会社が作っているのは、生糸ではありません。なんと、ワクチンや医薬品の原材料となるタンパク質です。
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KAICO株式会社は2018年に福岡市で設立されたベンチャー企業。創業した大和建太さんは研究者ではなく、元・総合重機メーカーの会社員。
九州大学ビジネススクールで学んだ後、「九州大学のシーズを使って起業できないか?」と考えた大和さんが着目したのが、農学部の日下部教授によるカイコの研究でした。その内容は、カイコにしか感染しないバキュロウィルスを利用して、カイコの中で特定のタンパク質を発現させるというもの。大和さんはこの技術を使ってワクチンや医薬品の原材料となるタンパク質を製造し、医薬品メーカーなどへ供給するビジネスモデルを作り上げたのです。 - 国にも認められた数々のメリット
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タンパク質は創薬のタネといわれており、これまでもさまざまな生物の細胞を使って合成・生産が行われてきました。しかし、バイオリアクター(生化学反応装置)としてカイコを使う技術はほとんど知られていません。長年にわたってカイコを研究してきた九州大学ならではの技術であり、この技術に適したカイコの系統やバキュロウィルスの株を保有していることも大きな強みになっています。
カイコを使えば複雑なタンパク質の発現ができるため、ワクチンや医薬品の材料になりやすく、カイコ1頭1頭が試験管や工場の役割を果たすので、少量多品種開発やスケールアップも容易。安全性も高いなど、多くのメリットが国にも認められ、次のパンデミックにむけた国産ワクチンの共同開発プロジェクトにも参画しています。 - 経口ワクチンで、世界を救う
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さらに注目すべきは、画期的なその活用方法。同社が今めざしているのは、口から摂取できる経口ワクチンの開発。手始めとして、豚用の実用化が進んでいます。養豚場ではこれまで、1頭1頭にワクチンを注射する必要がありました。しかし経口ワクチンなら、エサに混ぜるだけでOK。養豚家の負担を大きく減らすことができます。
「まずは豚ですが、次は養殖魚用の経口ワクチンにも取り組んでいます。バキュロウイルスの遺伝子組換え技術によって、これまでに1000種類以上のタンパク質をつくった実績があります。将来的には、ヒト用の技術もできるはず」と話す熊﨑CFO。
そうした将来性、社会貢献度の高さが、多くの投資家たちの共感を呼び、これまで総額8億円以上の資金調達を実現しています。
- 5年後の上場をめざして
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オフィスとラボは九州大学のキャンパスに近い福岡市西区にあります。社員は現在17名(2024年3月末現在)。大半が研究職ですが、九州大学卒は意外と少なく、さまざまな民間企業で研究開発をしていた人が活躍しているそうです。
現状の事業は、製薬会社などからの受託開発、試薬の製造・販売、動物用経口ワクチンの開発が三本柱。年商は約1億円で現状は試薬販売による売り上げがメインですが、今年の5月からはいよいよ、豚用経口ワクチンの販売が始まります。
「まずは養豚頭数が日本の2倍いるベトナムで販売し、その後はタイにも進出する予定です。3年後には動物用医薬品を商品化し、5年後には上場をめざしています」と熊﨑CFO。
「最終的な目標としては、やっぱり、ヒト用の経口ワクチンの開発です。経口なら、注射も技術も不要。常温でも保存できるので、アフリカの奥地でも使える。感染症で命を落としている世界中の人たちを救える可能性があるんです」。
福岡市西区ののどかな風景に囲まれた小さなラボで、世界を変えるかもしれない前代未聞の挑戦が始まっています。
会社概要
- KAICO株式会社
所在地 | 福岡県福岡市西区九大新町4−1 |
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URL | https://www.kaicoltd.jp/ |
代表者 | 大和 建太 |
設立 | 2018年4月 |
従業員数 | 17名 |